猫と俺と鳩と婆
昨年の夏ごろ、近所を歩いていると、俺は、なかなかお目にかかれない光景を目にした。
子猫がハトを口で咥え、歩いているのだ。あんまり見れたもんではないだろう?
ハト全く動かず。そして猫、意気揚々。
自分の体と同じくらいの大きさのハトを咥えて、これ見よがしに歩いている子猫を見つけた俺の心はトキメイてしまった。
こうなる前に、この獣二匹にどんな戦いがあったのかと想像するだけで、いてもたってもいられなくなった。これはこの事の結末を見届けるしかないと思い、着いていくことにした。
だがすぐに、あっ!てなる。そういや俺知ってるわ、この子猫。
俺が今、立っている、目の前にある家の小猫じゃん。
と、同時にまた、あっ!てなる。
小猫が前にある家の、チェーンだけつながってあって半開きになった玄関のドアから中にはいっていったのだ。
中に入る瞬間に、ハトの頭を玄関の角にぶつけて・・・・・
すると鳩はビクッビクッと痙攣し、震えだす。
マジか!かろうじで生きてるじゃん。息も絶え絶えじゃん。
目の前の光景が一気にグロテスクになってしまった。
もう家の中に子猫入っちゃって見えないし、わりとグロい感じになってしまったので、ここからもう立ち去ろうとしたのだが、女の人の悲鳴がそうさせなかった。
「嫌ーーー、お父さん!ハトが!ハトがっ!ゴンちゃんが咥えてるぅぅ。」
家の中に人がいましたか!!!
大ごとになってまいりました!と再びテンションが上がった。こうなった俺は誰も止めることができない。この結末を見るまで俺はここに居てやるぜ!と決意する。
というか、猫なのにゴンちゃんって名前なんだと、少しだけ気になりはしたが、そんな事より今は耳を澄ませて、この家から聞こえてくる会話に集中する。
女「血ぃ垂れてるぅぅぅ、アナタ何とかしてぇぇ」
男「俺はできない、こういうのはできない」
女「とって!とってぇぇ!」
男「無理!・・・・・・無理だって」
耳を澄まさなくても、鮮明に聞こえてくる怒号の数々に、俺はニヤける事を辞められなかった。
他人の家の前でほくそ笑む俺、という光景は客観的に見ても気持ちの悪いことだが、それはしょうがない、もうだって俺はこの夫婦の発する怒号達に虜なのだ。
女「もういいわ!!お婆ちゃん呼んで!二階で寝てるから!早く呼んでぇぇ!」
男「自分で呼べ!お前はちょっと落ち着け!あとウルサイ!」
少しの沈黙の後、静寂を切り裂くように家のドアが開いた。
お婆ちゃんがフルフルと震えるハトの足をつかみ、家から出てきたのだ。
えっ!としか思えなかった。
おおかた家の中であった経緯は想像できるのだが、まさか結果がこうなるとは。
するとお婆ちゃんは俺と目が合うなり会釈をブチかましてくる。俺も頑張ってぎこちないながらも会釈する。
何にも説明がなかったら、完全にホラーである。というか説明があってもホラーである。
血たれてるもの。ハト動いてるもの。ハトの持ち方が、どこかの部族そのものだもの。
そんなこっちの思いを全く知らないお婆ちゃんは、スタコラッサッサと歩きだし、俺の目の前を通り過ぎる。
「もういやねー」と言いながら。
この大惨事を「もういやねー」で済ましてしまった、人生における年期の違いを見せつけられる。
だがいやなのはこっちだ。好奇心でここまで来てしまった事を後悔する。
呆然とするついでに、お婆ちゃんはどこにいくのかと思い、目で追っていた。
すると、このババアはやりやがったのだ。
近くに流れてる川に向かって、ハトを投げた。思いっきり。
ハトの足をつかみ、腕を振り上げ、遠心力をつかい、平和の象徴のハトをぶん投げた。
ヒシャン、と水の音がした。
とにかく俺は走った、川辺に向かって。そこではハトは川の水流で流れることも無く、全く動くこともなく岩に引っかかっていた。
この時点でババアは家に向かって歩き出していたので、俺は勇気をだして、こう尋ねた。
「なんで投げたんですか?」と。
すると
「まだ生きてたし、飛ぶかと思った」と言った。
はー、そうなんだ、とは納得できない、だってあの『ハトの投げ方』はウルトラマンセブンのアイスラッガーばりだ。
あんなんじゃ仮にまだハトが飛べたとしても、有無を言わさず川にドボンでは無いか?
殺意が無かったとは、誰も思わんぞ!慈悲が、ねー。このババア慈悲、ねーよ。あの迷いのなさはなんなんだよ、ヒットマンかよ。そういえば俺に足りない部分って、こういうダイナミックな所なんじゃねーの?
そんな事を思っているとババアは家に入って行ってしまった。
その後、俺はこのババアと仲良くなり、白タイ焼きを貰ったりする仲になっていたりする。
人生とは何があるか分からないものだ。
ただこの一連の騒動で唯一分かったことが、ハトが川に落ちる音が『ヒシャン』っていう事だけなのさ。
子猫がハトを口で咥え、歩いているのだ。あんまり見れたもんではないだろう?
ハト全く動かず。そして猫、意気揚々。
自分の体と同じくらいの大きさのハトを咥えて、これ見よがしに歩いている子猫を見つけた俺の心はトキメイてしまった。
こうなる前に、この獣二匹にどんな戦いがあったのかと想像するだけで、いてもたってもいられなくなった。これはこの事の結末を見届けるしかないと思い、着いていくことにした。
だがすぐに、あっ!てなる。そういや俺知ってるわ、この子猫。
俺が今、立っている、目の前にある家の小猫じゃん。
と、同時にまた、あっ!てなる。
小猫が前にある家の、チェーンだけつながってあって半開きになった玄関のドアから中にはいっていったのだ。
中に入る瞬間に、ハトの頭を玄関の角にぶつけて・・・・・
すると鳩はビクッビクッと痙攣し、震えだす。
マジか!かろうじで生きてるじゃん。息も絶え絶えじゃん。
目の前の光景が一気にグロテスクになってしまった。
もう家の中に子猫入っちゃって見えないし、わりとグロい感じになってしまったので、ここからもう立ち去ろうとしたのだが、女の人の悲鳴がそうさせなかった。
「嫌ーーー、お父さん!ハトが!ハトがっ!ゴンちゃんが咥えてるぅぅ。」
家の中に人がいましたか!!!
大ごとになってまいりました!と再びテンションが上がった。こうなった俺は誰も止めることができない。この結末を見るまで俺はここに居てやるぜ!と決意する。
というか、猫なのにゴンちゃんって名前なんだと、少しだけ気になりはしたが、そんな事より今は耳を澄ませて、この家から聞こえてくる会話に集中する。
女「血ぃ垂れてるぅぅぅ、アナタ何とかしてぇぇ」
男「俺はできない、こういうのはできない」
女「とって!とってぇぇ!」
男「無理!・・・・・・無理だって」
耳を澄まさなくても、鮮明に聞こえてくる怒号の数々に、俺はニヤける事を辞められなかった。
他人の家の前でほくそ笑む俺、という光景は客観的に見ても気持ちの悪いことだが、それはしょうがない、もうだって俺はこの夫婦の発する怒号達に虜なのだ。
女「もういいわ!!お婆ちゃん呼んで!二階で寝てるから!早く呼んでぇぇ!」
男「自分で呼べ!お前はちょっと落ち着け!あとウルサイ!」
少しの沈黙の後、静寂を切り裂くように家のドアが開いた。
お婆ちゃんがフルフルと震えるハトの足をつかみ、家から出てきたのだ。
えっ!としか思えなかった。
おおかた家の中であった経緯は想像できるのだが、まさか結果がこうなるとは。
するとお婆ちゃんは俺と目が合うなり会釈をブチかましてくる。俺も頑張ってぎこちないながらも会釈する。
何にも説明がなかったら、完全にホラーである。というか説明があってもホラーである。
血たれてるもの。ハト動いてるもの。ハトの持ち方が、どこかの部族そのものだもの。
そんなこっちの思いを全く知らないお婆ちゃんは、スタコラッサッサと歩きだし、俺の目の前を通り過ぎる。
「もういやねー」と言いながら。
この大惨事を「もういやねー」で済ましてしまった、人生における年期の違いを見せつけられる。
だがいやなのはこっちだ。好奇心でここまで来てしまった事を後悔する。
呆然とするついでに、お婆ちゃんはどこにいくのかと思い、目で追っていた。
すると、このババアはやりやがったのだ。
近くに流れてる川に向かって、ハトを投げた。思いっきり。
ハトの足をつかみ、腕を振り上げ、遠心力をつかい、平和の象徴のハトをぶん投げた。
ヒシャン、と水の音がした。
とにかく俺は走った、川辺に向かって。そこではハトは川の水流で流れることも無く、全く動くこともなく岩に引っかかっていた。
この時点でババアは家に向かって歩き出していたので、俺は勇気をだして、こう尋ねた。
「なんで投げたんですか?」と。
すると
「まだ生きてたし、飛ぶかと思った」と言った。
はー、そうなんだ、とは納得できない、だってあの『ハトの投げ方』はウルトラマンセブンのアイスラッガーばりだ。
あんなんじゃ仮にまだハトが飛べたとしても、有無を言わさず川にドボンでは無いか?
殺意が無かったとは、誰も思わんぞ!慈悲が、ねー。このババア慈悲、ねーよ。あの迷いのなさはなんなんだよ、ヒットマンかよ。そういえば俺に足りない部分って、こういうダイナミックな所なんじゃねーの?
そんな事を思っているとババアは家に入って行ってしまった。
その後、俺はこのババアと仲良くなり、白タイ焼きを貰ったりする仲になっていたりする。
人生とは何があるか分からないものだ。
ただこの一連の騒動で唯一分かったことが、ハトが川に落ちる音が『ヒシャン』っていう事だけなのさ。
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